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諸物価高騰を受けて、親会社や顧客企業と製品値上げ交渉を行う中小・小規模企業が増加していますが、適正価格の元となる原価の算出は、特に製造業では複雑です。そこで中小・小規模製造業向けに、価格交渉にも使える簡易的な製造原価の算出法をお伝えします。

1.はじめに

中小・小規模製造業においては、材料費・人件費(労務費)・光熱費などの高騰により、親企業や取引先企業と製品価格の値上げ交渉を行う機会が増えています。また、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)に関する運用基準が、2024年5月27日に改正され、下請法ガイドラインにおける「買いたたき」の認定基準が厳格化されるなど、適正価格による取引を促す機運が高まっています。

これまで何年間も価格交渉を行ってこなかった下請企業が、取引製品の値上げを認めてもらおうと、親会社へ再見積提示などで製品価格の値上げを図っています。私の支援先でも「久々に元請けと交渉した」「値上げに応じてもらえた!」という中小・小規模製造業が増えています。

今後も原材料・人件費の値上げが続けば、親企業や取引先との価格交渉を頻繁に行うことが求められ、製品価格の見積りを行う機会も多くなりますが、都度変更した見積価格を相手に納得させなければ、必要な利益を得られません。しかし、製造業が個別原価を計算するには「材料費」「直接製造費用」「間接製造費用」に加えて「販管費」を配賦し原価に加える必要があり、小規模企業では、かなり大雑把な方法で見積りを行っている企業も少なくありません。

物価上昇が続く中、十分な製品値上げを実現するためにも、自社の見積価格を相手に説明できる妥当性があり、しかも、中小・小規模企業でも容易に個別原価を計算できる方法を導入する必要性がある、と考えられます。

そこで、「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書1(株式会社アイリンク照井清一著)」に沿って、個別原価を容易に把握する方法(同著では「利益まっくす」と名付けています)を紹介します。

2.個別原価の計算とは その1

①製造原価の計算式

  製品毎の個別原価(製造原価)は以下の式で計算します。

  個別原価=材料費+外注費+直接製造費用(労務費+設備費)+間接製造費用

②見積金額の出し方

  見積金額は、個別原価に販管費と目標利益を加えた価格となります。

  見積金額=個別原価+販管費+目標利益

③見積計算の考え方

①②の「製造原価の計算式」で正確にわかるのは、「直接製造費用」のみです。間接製造費用や販管費 は、どの製品にどれくらいかかっているのか、正確にはわかりません。「利益まっくす」では間接製造費用と販管費を「直接製造費用に比例する方法」で計算します。

3.直接製造費用の算出に必要なアワーレート(人)の計算方法

アワーレートとは「1時間あたりにかかる費用」のことで、人と設備に分かれます。「利益まっくす」では、人が1時間に費用をアワーレート(人)、設備が1時間にかかる費用をアワーレート(設備)と呼びます。
まずは、「アワーレート(人)」の計算方法を説明します。

アワーレート(人)は、直接作業者の前年度(変わる場合あり)年間労務費を年間就業時間と稼働率で割って計算します。

   作業者1人のアワーレート(人)= 年間労務費 ÷ 年間就業時間 ÷ 稼働率

稼働率の計算は以下となります

   稼働率 = 実稼働時間 ÷(実稼働時間+非稼働時間) = 実稼働時間 ÷ 就業時間 

稼働率は、数名からサンプルデータをとり、全体の稼働率を推定します。

推定した稼働率は、現場で同様の作業を行っている社員に適用します。

ある正社員設備作業者の人件費500万円、年間就業時間2,200時間、サンプルデータからとった稼働率が0.8の場合、

実稼働時間は2,200時間×0.8=1,760時間 アワーレートは500万円÷1,760時間=2,840円/時

となります。

また、「利益まっくす」では、稼働時間に段取時間を入れて計算します(方法は後述します)。

製造現場で直接製造に関与しない作業者(資材のピッキングや配送を行う作業者など)は「間接作業者」とします。間接作業者の労務費は「間接製造費用」として集計します。

次回は、アワレート(設備)の算出方法について解説いたします。